お茶の道具の世界:茶筅 - 茶道マインドフルネスコーチMiki先生が解説 Part 2

The World of Chasen (Bamboo Matcha Whisk) Part 2  - Written by tea ceremony teacher Miki Sensei

前回、茶道、ことお道具に置いての茶筅の特異性、その存在の美学について触れさせていただきました。その熱いポイントを改めて抜粋紹介すると、

  • 今でも奈良県生駒市高山町の16軒で日本の茶筌のほぼ100%が作られている。
  • 茶筅は元は鍋の焦げを洗う筅(ささら)からの発想。高山の茶筌を特に茶筌(竹に全)と書くのは、室町時代の中期、高山城主の次男が茶の湯の祖である村田珠光に依頼されて作られたものを「高穂」と評され、家臣である下級武士に継がれて発展以来。)
  • 今でも一子相伝(長男にのみ代々伝えられる)、口伝によるクローズドな継承文化で守られている。
  • 高度な伝統工藝の手間と技術を要しながら、茶席で同じ消耗品であるお茶やお菓子とは違い製も名も触れられない。また他に代替できる道具はない無二の存在。

今日本では抹茶同様、茶筌が手に入りにくくなっており、目に見えるものと同時に目に見えない技術をどのように守りつなげていくかが大きな課題になっています。

今回は特に製作工程から高山茶筅(≠日本産茶筌)の稀少性をみていきましょう。

材料

茶筅は材料として適した竹を見極めることから始まります。

茶筅は穂の本数や形、流派によって100種類以上あり、使う竹も淡竹(はちく)、煤竹、紫竹など異なりますが、最も一般的な淡竹は2,3年生のものを真冬に切り出し、煮沸後一か月日光にさらし、さらに1,2年納屋に陰干しして割れや変色がないものが使われます。

7工程

①片木(へぎ):節の上の表皮を削り、竹を16片に割る

②小割(こわり):種類に応じた穂数に割る

③味削り:流派によって削り片を変え、形の特性を出す

④面取り:外穂の面を取る

⑤下編み:外穂を引き上げ糸篝をする

⑥上編み:さらに糸かがりを二回する

⑦仕上げ:全体の形を整える

この7工程すべてが手作業で、それぞれに特化された職人さんもいらっしゃいますが、

全工程を一人で仕上げる職人さんもいらっしゃいます。一つ仕上げるのに2,3時間、一日に5本程しかできません。

年末、500年の歴史がある高山茶筅のうち、徳川将軍家御用達茶筅師和北堂の20代、谷村丹後さんにすべての工程を見せていただきました。

どの作業は、長年の指先の感覚一つ、繊細な作業なのですが、あまりに熟練され竹と親しまれているので、いともたやすくなされているような、竹を読まれているからこそ互いに抗わず沿い合ってる、竹自身が気持ちよさそうなほどに見えます。


②小割で穂は16本から最大120までに割られます。

64本(外穂と内穂を合わて128本)を基本として、
穂数が少ない=穂が太く腰の強い茶筅 濃茶を練る用 数穂(70本前後)、常穂(64本)など
穂数が多い=きめ細かでしなる茶筅。薄茶を点てる用 八十本立(75‐80本)、百本立(81‐95本)など。

工程においての要はその名の通り③味削りで、まさにお茶の味を決める、各家の個性、味が出る。この削り具合ですべてが決まるそうです。穂の必要な薄さ、しなり具合などを絶妙な角度で穂に刀をあてながら削り調整していきます。まるでトリミングや獣医さんが犬の嫌がる繊細なところにあえて触れながら、余計なものを除き、みるみる活き活きと澄んで息を吹き返していくようです。


外国人の見学者も増え、特に中国他で茶筅が量産されていますが、他はマネできても個々の技術とセンスはまねできない、されてないとおっしゃってました。

修行中もこの工程を集中的に直伝されたそうです。

もう一つ海外産との違いは軸(柄)の太さで、元来6‐8分(約2cm)であること。しっかりねかせ吟味された素材、端正であるということです。

一つ内緒かもしれない?興味深いお話をうかがいました。

茶筅の穂先がくるんとピンカーブしているものがよくありますが、これは本来の形ではなく、茶筅業が商売のために生み出したものだと。

茶筅、特に真の茶筅の穂先は緩やかにやや内に入る卵型でそれは清らかで美しいです。

穂がこのようにのびやかな形をしたものと、くるんと丸まっているものとの弾性、しなやかさを観た時、前者は圧をかけると、穂全体に力がかかり、全体がしなり、頼もしさがあります。それに対し、後者は、まるまった穂先部分に力がかかるため、この部分だけでしなり、結果穂先が折れやすくなります。つまり、できるだけ消耗し、頻繁に買っていただくためには、穂先が折れやすいくるんとしている方が都合いいということでこの形が作られるようになったそうです。

谷村さんの言われる「ええ茶筌」とは丈夫でしなやか、この相反するものが両立されるセンス。こそ日本人が茶筅、竹、あらゆる自然界に倣ってきた健やかな美ではないでしょうか。

今回は⑥の糸かがりを体験させて頂きました。少し力の入れ方を間違うと折れてしまうほど繊細な穂を内側と外側と固定されるように糸をかけていきます。普段目立たないながらも茶筅通しや持つとき置くときに北極星のように堅実に照らしてくれる黒糸の結びを感慨深く思いました。

そのあと最後に谷村さんが仕上げてくださるのですが、この時の言葉とまなざしが忘れられません。

「いくらでも永遠にできるので」

完成はない、ほど完成に近づける作業が姿勢が永遠にあるのです。そんな思いで作られていることを知りこれまでと全く茶筅との向き合い方が変わりました。※

消耗品だからこそ、自然と人間の共同作業で今ここに存在してくれているものだからこそ、とんでもないエネルギーがあり、役割をなせるのだと納得しました。命が吹き込まれるとはこのこと。茶筅にこれほどの神々しい美しさを感じたのは初めてでした。そしてもちろん愛おしさも史上最高です。

最後に工房にあるお茶室で谷村さん自らがお手製の茶筅で点てられたお茶を頂きながら、ご自慢のお道具の楽しい取り合わせを拝見しながらお話頂く谷村さんは少年のようで飾り気のない無邪気な方でした。名も作もつかない茶筅という伝統工芸、伝統美術の在り方、解釈を再定義する体現を楽しまれているかのような谷村さん、「茶筅は茶道具の末席だから」という言葉に大きな器とプライドを感じます。

中田英寿氏、佐藤可士和氏ら主宰の「REVALUE NIPPON CHARITY GALA with GUCCI」にも参画され、国内外を飛び回られてのご活躍、この日も明日からアメリカとおっしゃっていて、新しい風を起こす存在でもあります。

私はお茶について賢人らを想い巡らすとき、遣える、という言葉がよく浮かぶのですが、茶筌の在り方と谷村さんの在り方、その選ばれし存在力とお役目はまさに「遣える」だと。今後のお茶を点てる姿勢が全く変わるようなどっさりと祓われたあをによし奈良の年末でした。

改めて、

大事な茶筅をできるだけ長く使うためのヒント

【使用前】

①水または熱湯ではない湯を入れた盌やカップに穂先をつけておく(柄は水につけない!)

【使用後】

①使ったらすぐ、盌やカップに入れた水の中で穂先を振って汚れを落とす(柄は水につけない!)

②くせ直しに立てて自然乾燥

③乾いたら柄を下、穂先を上に立てて保管


谷村丹後さんによる茶筅糸掛け体験はこちらで問い合わせできます。→TOUR|和北堂 谷村 丹後|奈良・大和國高山の茶筅師、いにしえより伝わる竹の指頭芸術

 



著者:

藤﨑美紀 Miki FUJISAKI

ひばな(hibana to bloom) founder, tea life facilitator/coach

Webサイト: https://www.hibana-to-bloom.com/
Instagram: @hibanatobloom@mikiwisteria


大阪府出身。JAL CA時代に裏千家茶道を習い始める。ロンドン在住中に和カフェ(「Matcha」、「Cha no Ma」)の企画・運営、帰国後は海外事業部にて海外⇄日本の企画・運営に携わる。カフェ、茶の間、茶室に通じる、異なる存在が共に在ることでそれぞれのいのちがありのままに照らされ生かし合う場や関係性を探究すべくコーチング、ファシリテーションを学ぶ。

現在は「在る 在り合う」世界を今ここ私あなたから現すinterbeing をテーマに茶室やサロン、オンラインで、個人、企業向けに、茶道xマインドフルネスxコーチングのお茶会、お稽古、セッションを開いている。