お茶における「美」とは - 茶道マインドフルネスコーチMiki先生コラム

Beauty and Aesthetic Sensibility In The World of Tea - Explained by tea ceremony teacher Miki Sensei

今回は日本における美しさ、美意識について、という大きすぎるお題を頂きました。きっかけは前回の茶筅師谷口さんが仕上げ工程の時にふとつぶやかれた言葉。どこからお話ししようかというのと、自分が何をわかっていてそのうちのどれほど言葉にできるのかと想いながら筆を進めています。

一つ最初に浮かんだ体験として、美という字を書いて泣いたことです。

自分の名前に美という字がありーおそらく日本人の女性の名前で最もよく使われる漢字の一つー

バランスが難しく練習に、ひたすら小筆で半紙何枚もに’美’を書き続けているうちに、この字は羊+大で成り立っていることがわかってきます。羊が大きい、ふかふかで温かくやわらかく、みんなで充分に分け合っても余るほどの安心感、大丈夫、が隅々まで浸透し、それを欲し癒された細胞が涙を流したようでした。

お茶(茶道)における美の定義の一つとして、この安心感、があります。

お点前は腕手足の動きや立ち座り運び(歩き)がありながら全体としての基本姿勢をよく”大木のように”と表現されます。これは地に深く根を張るように下半身をどっしり安定させ、腰を起こし下丹田から背骨を積み上げ頭のてっぺん、百会から真っすぐ天につながる上下軸と、

足の左右の踏ん張りと、両肘を緩め両腕をまあるく抱え、脇は卵一個分いつも開けて下丹田を左右安定した姿勢を保っています。前後左右に手腕身体が動き傾くことがあっても心柱しなやかにこの基本は応用され通します。

自らが大木として天地とつながり、光や水を身体に気持ちよく巡らせながらその自然の一部としてお茶が点てられる、つまりお茶と一体になるというのは納得です。

私のお茶の先生はこれをお母さん、聖母マリアのように、と言われます。ふっくらあたたかく大事に懐に抱かれ安心して眠る赤ちゃん。ここには汚しがたい清らかな愛と強さを感じます。この母なる姿勢と関わり方はお茶碗、お道具、お花一つ、相席する方、空間、自分を含む世界に対しての所作振る舞いに通じます。

同時に、またこの赤ちゃんほど美しいものはこの世に在りません。小さく危うく無垢で守りたくなる存在。それは安心とは真逆な不安定な存在に私たちは心動かされ愛を引き出されます。この途上にあるもの、移ろっていくもの、不均衡なもの、欠けているもの、朽ちていくものたちにも私たちは美を感じるのです。

今咲かんとするモクレンの蕾、かすかに時折香るお香、唇に薄くなじむ口縁の器、ちろちろと揺れる燭台の光、お棗の繊細な蒔絵にみる膨大な時間や手間と受け継がれた技術。

おもわず手を伸ばし、それは両手両眼両耳でもたりないほど開いて守り受け止めたくなるような、それでいて簡単に触れることは許されないような、ここにも清らかさと、こちらの度量を試されるような前後多層な時空の余白があります。

あふれる愛そのものの存在としての安心感と、手を差し出さずにはいられない愛を発動させる不安定不規則性、その両方に私たちは美を感じます。

これらは互いに互いを含み、それこそが自然性でありその一部である人間の人間性、らしさだといえます。

そこには鼓動や息をのむ音、波のような呼吸の流れがあります。

今生きている、生かされている事実、実感、畏敬と感謝の共鳴があります。

自然、自然美という圧倒的絶対的愛を畏れ敬い、それに倣おうとあらゆる宗教学問、芸術文化を私たち人間は創り出して来ました。永遠に到達し得ないとわかりながらも不完全なりに精一杯今を尽くし生きる、その姿を私たちは美しいと感じる。それは世界共通のセンスではないでしょうか。

茶道はその感性と体現を習練稽古するのにこれ以上ないものとして今に引き継がれ、この先ますます人間が最後に求めるものばかりでできた先人からのギフトのように思います。

個人それぞれに軸が必要と言われるようになって久しいですが、その一つとして美意識の軸も磨き続けていきたいものです。次回以降そんなお話をできたらと思っています。

 



著者:

藤﨑美紀 Miki FUJISAKI

ひばな(hibana to bloom) founder, tea life facilitator/coach

Webサイト: https://www.hibana-to-bloom.com/
Instagram: @hibanatobloom@mikiwisteria


大阪府出身。JAL CA時代に裏千家茶道を習い始める。ロンドン在住中に和カフェ(「Matcha」、「Cha no Ma」)の企画・運営、帰国後は海外事業部にて海外⇄日本の企画・運営に携わる。カフェ、茶の間、茶室に通じる、異なる存在が共に在ることでそれぞれのいのちがありのままに照らされ生かし合う場や関係性を探究すべくコーチング、ファシリテーションを学ぶ。

現在は「在る 在り合う」世界を今ここ私あなたから現すinterbeing をテーマに茶室やサロン、オンラインで、個人、企業向けに、茶道xマインドフルネスxコーチングのお茶会、お稽古、セッションを開いている。